前人未到、アジア4連覇達成のガガン氏と九州の雄・福山氏がコラボ。五感を拡張する春の饗宴。
[TOP CHEF DAY / CUISINE SAGA VOL.02]

Release on May 7, 2018

report 01.

森永邦彦氏による桜のシェフコートに身を包む、ガガン・アナンド氏(左)、大塚瞳氏(中)、福山剛氏。

4つの個性が重なり予想不可能な饗宴に。

明治維新150年事業として、佐賀の食材や器、そして所縁のあるプロフェッショナルを集めて一夜限りで開く饗宴「CUISINE SAGA」も3回目の開催。
今回はいよいよ、アジアのみならず世界からも注目されるシェフの登場です。

  • シェフの名は、ガガン・アナンド。
    タイのバンコクでオーナーを務める「Gaggan」は、「アジアのベストレストラン50」において2015年から3年連続で1位にランクイン。そして4月8日に開かれたこのイベントの直前には2018年度のランキングが発表され、そのなかでもトップに輝き見事4連覇を達成。名実ともにアジアのレストランシーンを牽引する稀代のシェフです。今回、そのパートナーとして腕を振るうのは、同ランキングにおいて九州で唯一ランクインした「La Maison de la Nature Goh」の福山剛氏。2人は「GohGan」というユニットとして国内外の食のイベントでクリエイティブな料理を共に作る間柄でもあり、2021年には本格的に手を組み、日本で店舗を構えることを目指している同志なのです。

    そしてその強力なシェフ2トップが活躍する舞台を整えるのが、徹底した食の空間づくりに定評のある、フードコーディネーターの大塚瞳氏。そこにパリコレでも活躍するファッションデザイナーの森永邦彦氏も加わるという、なんとも豪華かつ、先の展開が読めない布陣。

    この4つの才能が共鳴することで一体どのような化学反応が起こるのか。その驚きの始終をお伝えします。

  • ともにアジアを代表する2人のシェフ。料理以外のシーンでも根っからのエンターテナーだ。

  • メニューはシンボルとなる食材をユニークな絵文字を使って描き、イマジネーションを膨らませる、ガガン氏流のプレゼンテーション。

  • 今回もビバレッジは嬉野の茶師・松尾俊一氏が担当。嬉野茶のほか台湾茶、ギリシャのハーブティまで世界中の茶葉から、ガガン氏の料理に合うお茶をセレクトした。

  • 窓際でゆっくり抽出される氷出しの嬉野釜炒り茶。土地の味を感じる濃厚で鮮烈な茶葉作りは松尾氏ならでは。

長く心に刻まれる、一夜だけの〝景色〟をつくりだす。

日頃、コーディネーターとしてだけでなく自らも料理人として腕を振るう大塚氏ですが、今回は食空間全体のプロデュースに専念。そのテーマを「桜」と定めます。 「さまざまな美味しいものが溢れているこの時代。私はただ美味しいだけの料理には多くの価値を置いていないんです。それより、『こんな面白い体験をしたよね』とか、『あの人と一緒に楽しいひと時を過ごしたね』ということの方が、長く記憶に刻まれているもの。だからガガン氏をはじめさまざまな才能が結集しているのだから、ほかのどこにもない一夜、ここでしか見られない〝景色〟をつくりたいと考えたんです」と大塚氏は語ります。そして料理や器、科学にファッションなどさまざまな要素を絡めることで、立体的に春を感じられる空間にすることに心血を注いだといいます。
今回、ダイニングには饗宴のシンボルともいえる桜が生けられていましたが、この生花ひとつをとっても大塚氏のこだわりが見られます。例年以上に桜の開花が早かった今年。桜前線の先頭をゆく九州・佐賀も例外ではなく、イベント当日の4月8日に開花のピークを合わせるために、旧知の生花店に頼みこみ、ぎりぎりまで開花調整を行いました。

  • テーブルコーディネートの細部まで確認する大塚氏。

  • この日、もうひとつの主役だった「桜」。ぎりぎりまで開花調整をすることで、最も見頃の状態でゲストを迎えた。

普段、自分が主催する食イベントでは料理や器だけでなく、身にまとうものも含めトータルで調和を考えるという大塚氏。今回も、この春の一夜を象徴するような唯一無二のコスチュームが制作できないか、頭を悩ませたといいます。そして向かったのは、パリコレをはじめとして国内外で活躍する気鋭のファッションデザイナー・森永邦彦氏のもとでした。 「最新鋭の料理メソッドを駆使するガガン氏の料理に合わせるには、同じくテクノロジーや新技術を積極的に服作りに落とし込むスタイルの、森永氏以外にいないとアタックしました」(大塚氏)
ガガン氏の最新の分子料理などを服に落とし込むにはどうすればいいか。森永氏は答えとして2つの服を用意します。その一つが桜吹雪をモチーフとしたTシャツ。
「今回のイベントは明治維新から150年ということで、当時の日本人が着ていたものにフォーカスしました。その頃の人々の間では洋服を脱いだ時の心許なさを解消するために、体に和彫の刺青を彫ることが流行していたそうです。なかでも桜吹雪は人気の絵柄だったそう。それをできるだけ抽象化して現代のファッションで使われることの多い、水玉模様とストライプ柄で表現しました」(森永氏)。

  • 「ガガン氏の実験的な手法を視覚の面から表現した」と話す森永氏。

  • 桜吹雪を抽象化したTシャツは、シェフのほかサポートメンバーたちにも好評だった。

そしてもう一つは、洋服にテクノロジーを融合させる森永氏らしいシェフコート。一見、白衣に桜模様のパッチワークを散りばめた変哲のない服に見えますが、これにストロボや携帯の光などを当てると一変。桜が桃色や黄色、緑色など鮮やかに輝いて見えます。これは光の角度によって異なる色を発色させる特殊な素材を用いているため。
桜の花の移ろいを服の上で表した驚きの趣向に、ゲストからは感嘆の声があがりました。

  • 照明を落とし、iPhoneのフラッシュを焚いて撮影するとこの通り。

  • わずかな光の入射角度でも発光する色が違う。動画で撮影するとその変化は一層鮮明に。

五感を刺激し拡張させるような、未知の料理の連続。

七色に光るユニフォームに目を奪われたあと、いよいよガガン氏と福山氏のユニット「GohGan」による料理が運ばれて来ました。「GohGan」としてはどちらがイニシアチブをとるわけでなく、2人、そしてチームでアイデアを出し合い料理を構築していきます。そして、その土台となる食材は隣県・福岡の自店でも普段から佐賀の食材を積極的に使っているという福山氏が中心となり、セレクトしました。
最初に供されたのは、ハーブなどを散らしたデコポン。ストローから吸い込むと口の中に広がるのは紫蘇の香りとピリッと舌を刺激するチリの味。これはハーブや紫蘇、梅干しや赤カブなどを一緒に味わうことで、カクテルのブラッディメアリーのような味わいを、口の中で完成させるという一皿。視覚からくる情報からは想像もつかないような味覚のカウンターパンチ。「GohGan」の創り出す料理は終始この連続。全部で15品にも及ぶコースの最中、ゲストの脳は心地良い裏切りにフル回転状態となり、次なる料理の到着を待ち遠しく感じていました。
通常、「GohGan」がイベントで提供するときは、その土地ならではの食材とインスピレーションまかせ。決まったメニューはありません。ただ、インドに出自を持つガガン氏らしく、カニを使った温かいカレーそばと、ガガンカレーと呼ばれるスパイス料理だけは外せないシグニチャーディッシュです。
今回はそばではピンク色の桜そばを用い、ココナッツ風味のカレーそばを提供。そして料理を締めくくるカレーでは、この佐賀の地でならではの佐賀牛のホホ肉をセレクト。これは牛を神聖な存在とみなすインドでは当然提供されることのないメニューで、ガガン氏自身「牛を使ったカレーを作ったのは今回が初めてだと思う」と言うように、日本有数の銘柄牛の産地に敬意を払った幻の一品でした。

1皿目は「UME BLOODY MARY」。紫蘇や梅、赤カブなどのジュースが、通常のブラッディメアリーにはない複雑さを作り出す。器は李荘窯の寺内信二氏の鎬シリーズ。

2皿目の「WHITE ASPARAGUS SAKURA」。マッシュ状のサツマイモでアスパラガスを直立させている。周囲の土はカカオクッキーを砕いたもの。

5皿目の「TEA-RA-MISO」。マスカルポーネチーズと白味噌を使った一品。インドのスタイルを踏襲し、白毫烏龍茶とともに提供。器は葉桜をイメージした李荘窯の青磁を使用。

7皿目の「TUNA TARTAR ONIGIRI」。ベトナムミント&ハーブのピリリとした辛味を効かせたトロのタルタルを、ライスペーパーで巻いて桜餅風に。器はクリスチャン・メンデルツマがデザインした「2016/」の白磁のプレート。

8皿目の「CHAWANMUSI OF TOMATO」。セミドライトマトやマイクロトマト、バジルのペーストなどを閉じ込め茶碗蒸し風に提供。器は「ARITA PORCELAIN LAB」の蕎麦猪口と薬味皿をマット調の白磁に仕上げた特注品。

9皿目の「GOHGAN CURRY VERSION 8」。そばとココナッツ風味のカレーアイスをよく混ぜ、箸でいただく。李荘窯の半球体の器を桜色で仕上げ、春らしさを演出。

12皿目の「GOHGAN BAMBOO SHOOT BEEF FRY」。スパイスの華やかな香りが引き立つように煮込まず15分ほどで仕上げたカレー。ガガン氏が牛肉を使った希少な一皿。器は李荘窯の銀彩。

13皿目の「STRAWBERRY CHEESECAKE MONAKA」。チーズケーキを一度作りそれを粉砕してクリーム状にし、最中でサンド。器は、トマス・アロンソがデザインした使い手によって様々な用途で使用できる「2016/」の白磁のトレイ。

14皿目の「SAKURA BONSAI」。よもぎのアイスの下には春菊のソースを忍ばせる。器は、テーマである「桜」の花弁をイメージした李荘窯の手ロクロの作品。

盛り付けもチームでアイデアを出し合い、ユニークなビジュアルに仕上げた。

器を起点に、料理をクリエイトする醍醐味。

  • 器と料理のマリアージュを掲げる「CUISINE SAGA」のこと。今回も印象的な器づかいが数多く見られました。その中でも器を起点に、その特徴的な形状をどう生かすかに心を砕いてクリエイトされた料理があります。
    そのひとつが有田の職人の高度な技術と世界各国の16組のデザイナーの感性を融合させて作り上げた「2016/」のおろし器。これにフォアグラのアイスクリームにぶつ切りしただけのフルーツキャロットを添えて提供しました。そしてゲストは皿を使って自ら人参をすりおろし、その瑞々しい食感とクリーミーなムースのハーモニーを楽しみます。そうした自分で完成させる料理の要素として器が重要な役割を担ったのです。

  • 3皿目の「FOIEGRAS ORANGE CARROT」。フォアグラの冷たいムースに液体窒素でフレーク状にしたフォアグラをトッピング。器は有田の赤絵にインスパイアされた藤城成貴氏がデザインした「2016/」のおろし器。

    提供の直前にも、自ら器で人参を摩り下ろし味や食感を確かめるガガン氏。

  • ほかにも、森永氏が1年間のうち桜が開花する時期を円グラフにして表現した平皿の上に、グリーンとホワイトの2種類のアスパラガスのソースを使って色合いを重ね合わせたり、無数の小さな穴がある陶器製のコーヒーフィルターを使って、煎った米の香りを移したコンソメスープなど、器から着想を得て料理を生み出す作業も今回の楽しみだったと福山氏は振り返ります。

  • 10皿目の「SAKURADAI GREEN WHITE ASPARAGUS」。ガガン氏が皿を見て2色のアスパラガスソースを使うことを発案。身厚な桜鯛の火入れもパーフェクト。

    森永氏が李荘窯に依頼し作り上げた桜のプレート。一年を360度の円に見立て、3月中旬から4月上旬までのわずかな開花期間をピンクで表した。

    11皿目の「MOUNTAIN VEGGIES CHICKEN SOUP」。ガガン氏が印象的だった佐賀の食材としてあげた、5種類の山菜を使った一品。冬の名残のフランス産トリュフとともに。

    器は、ビッグゲームがデザインした「2016/」の耐火度の高い土で作られたコーヒーカップと多孔質の磁器で作られたコーヒーフィルター。陶磁器とは思えないほど水分を透過させ、香ばしい米の焙煎香をコンソメスープに移した。

  • また、食の空間づくりの一部として、大塚氏も3つの器づくりに参加。それは彼女が料理の道を歩み始めたばかりのころ、師から伝えられた3つの調理の基本をモチーフとしたもの。「その先生はすべての調理は〝切る〟〝ちぎる〟〝たたく〟という3つのうちのどれかであると。だからその1つ1つの工程を大切にしなさいと教えてくださいました」。その行為をヒントにし、有田の吉右ヱ門窯の原田吉泰氏とともに協働。とくに、大塚氏が国内外で収集したアンティークのナイフで皿の表面を切り裂いたような器は、シェフたちも「クレージーだね」と最大級の賛辞を惜しみませんでした。

  • 4皿目は「SAKE LEES NANO HANA BUN」。ガガン氏の店でも出している定番メニューで、今回は春野菜を包み込み、上に炙ったウニとアオサパウダーをのせた。器は〝切る〟をテーマに大塚氏が吉右ヱ門窯とともに作ったもので、切り目を入れて焼いたプレートに、あとからアンティークナイフを接着したもの。

    6皿目は「FIREFLY SQUID PAKODA」。ホタルイカをイーストを配合した衣をつけて揚げ、サクッ&フワッ感を出したもの。佐賀県産の赤と黄色の柚子ごしょうをピーマンでのばしたソースを添えて。器は〝ちぎる〟がテーマで、樹脂製のサンプルを実際にちぎって、そのままの形を石膏型に鋳込んで成形。

    15皿目の「CHURRO WITH CITRUS MARMALADE」。温かいチュロスに桜シュガーをまぶし、柚子ごしょう入りのガナッシュと、玄界灘に浮かぶ馬渡島固有の柑橘・元寇のママレードを添えて。器は〝たたく〟をテーマに底面をハンマーで丁寧にたたいたテクスチャー感のある一皿。

世界トップのホスピタリティが、忘れがたい一夜を演出。

ガガン氏と福山氏による、クリエイティブでアメージングな料理が15品。
そのひと皿ひと皿に詰め込まれた想いや情報量のあまりの多さに、終了時にはゲストも充足感に浸っているような状態に。
ただ、会を通して一番印象に残ったのは、ゲストを盛り上げ自らもハッピーなオーラを振りまくガガン氏と、何時も太陽のような笑顔を絶やさない福山氏。
この日の準備中、2016年に有田焼創業400年事業にも参加していた大塚氏は、「佐賀は何百年も前から豊かな食材と器に恵まれ、華やかな食卓があった場所。だから400年目以降の佐賀でも、こんなにも楽しい食のシーンがありますよってことを示したいんです」と話していましたが、まさにそれを体現するような饗宴だったと思います。

  • 会場のいたるところで、メインキャストとゲストの会話が広がった。

  • ゲストたちは一皿ずつ確かめるように、その味や仕掛けを楽しんでいた。

全国から集まった俊英のシェフたちのサポートに謝辞をのべるガガン氏。

PROFILE

ガガン・アナンド

ガガン・アナンド

Gaggan Anand

インド・コルカタ出身。2007年にバンコクへ移住し、その後レストランの料理長を務める一方、エルブジで研修を積む。2010年に開いたレストラン「Gaggan」では、オーナー兼エグゼクティブシェフを務め、Progressive Indian Cusine(進歩的インド料理)を打ち出す。世界的注目が集まる「アジアのベストレストラン50」において4年連続1位に輝き、2017年には「世界のベストレストラン50」でも7位を獲得。将来的に福岡に小規模店の開業も見据えている。

福山 剛

福山 剛

Takeshi Fukuyama

1971年2月26日生まれ。福岡県出身。高校生在学中、フレンチレストランの研修を受けた。1989年フランス料理店「イルドフランス」に就職。その後、1995年からワインレストラン「マーキュリーカフェ」でシェフを務めた。2002年10月、福岡市西中洲に「La Maison de la Nature Goh」を開店。2016年には、九州で初めて「アジアのベストレストラン50」に選ばれた。西部ガスクッキングクラブ講師などを務める。

大塚 瞳

大塚 瞳

Hitomi Otsuka

1981年福岡生まれ。料理上手でおもてなしを大切にする祖母や母の影響で、幼い頃から料理や室礼に興味をもつ。食べることが大好きで、世界中をめぐって様々な味に親しみ、また料理研究家のもとで学ぶ。料理会で使う食材は全て自ら生産者を巡り探し求めたもの。その数は数千件に及ぶ。窯元との付き合いも多く、出張料理人として、気に入った土地に数日限りの食空間を演出するイベントプロデュースを10数年間行い、器と食材をつなぐ役割を果たしている。

弓削 啓太

森永 邦彦

Kunihiko Morinaga

1980年東京都生まれ。早稲田大学社会科学部、バンタンデザイン研究所卒業。2003年、「アンリアレイジ」として活動を開始。「神は細部に宿る」という信念のもと作られた色鮮やかで細かいパッチワークや、人間の身体にとらわれない独創的なかたちの洋服、テクノロジーや新技術を積極的に用いた洋服が特徴。2005年、ニューヨークの新人デザイナーコンテスト「GEN ART 2005」でアバンギャルド大賞を受賞。2005年より東京コレクションに参加。2014年よりパリコレクションに進出し、国内外50店舗で販売されている。