知られざる日本の味力を届ける、孤高のシェフが挑んだ一夜の饗宴。
[TOP CHEF DAY / CUISINE SAGA VOL.03]

Release on May 24, 2018

report 01.

国籍を越え、ジョエル・ロブション氏の厚い信頼を得た須賀洋介氏。

フレンチの寵児、同志に導かれて佐賀の地へ。

明治維新150年事業として、国内外で活躍するトップシェフを招き一夜限りで開くプレミアムなディナー「CUISINE SAGA」。VOL.03となる今回は、フレンチのみならずガストロノミー界の巨人として知られるジョエル・ロブション氏に若くして見出され、長年右腕として活躍してきた須賀洋介氏が招聘されました。
現在は東京に自身のラボラトリー「SUGALABO」を構える須賀氏。その須賀氏と佐賀との関わりは、フランス時代に出会った佐賀出身のシェフ・吉武広樹氏が縁をとりもったのがはじまり。「年齢も近く、ともに異国でフレンチに向き合う吉武氏は同志ともいえる存在。そんな彼が故郷である佐賀の食材の魅力、器の素晴らしさを話してくれ、帰国したらすぐに行った方がいいと勧めてくれたんです」(須賀氏)。
そして2016年に有田で行われた「世界料理学会 in ARITA」への登壇などを経て、佐賀との結びつきが次第に強まっていったといいます。 「帰国してからは日本全国の食材や生産者を探し、訪ねることをライフワークとしているんですが、そのなかでも佐賀は欠かせない場所のひとつ。多分今までで一番通った県じゃないかな」と須賀氏。この日のディナーでも、その言葉を裏付けるような食材への深い眼差しや、生産者との信頼関係が垣間見える瞬間がありました。

  • 「CUISINE SAGA」の舞台となるさがレトロ館。佐賀の県木、楠の緑も濃く繁る季節になってきた。

  • 須賀氏の皿を味わう希少な機会を求め、多くのゲストが訪れた。

  • 茶摘みの合間をぬって、今回も松尾俊一氏がビバレッジ担当として参加。今年摘んだばかりの新茶も提供された。

  • アミューズとともに提供された冷たい白茶。

フレンチの寵児、同志に導かれて佐賀の地へ。

  • 自身の「SUGALABO」やイベントでも有田をはじめとする窯元の器を多用しているという須賀氏。この日最初の皿となるアミューズは、ショープレートに4つの豆皿を載せて提供するというスタイル。この豆皿は手塩皿(おてしょざら)と呼ばれるもので、古くは京都・朝廷の時代には食卓で手元に塩を盛る器として使われていたものです。江戸期の有田でも多くの手塩皿が作られましたが、それを現代の技術で復活させたのが今宵のテーブルに並んだ豆皿たち。明治維新以前の器の技術や情緒をそのまま再現するために、当時の名品を3Dスキャンで立体的に取り込んで鋳込型を作成し、そこから釉薬の風合いなども計算して細部の彫りなどを修正。それに有田の20社の窯元それぞれが得意とする絵付けを施した苦心の作です。

  • 長崎の松倉商店の生カラスミを京都・末富の最中で挟んだもの(右)など、メインとなる食材はほとんどが旧知の生産者の手によるもの。

  • その小さな万華鏡ともいうべき皿に載るのが、須賀氏が自ら訪ね歩いた九州、佐賀の食材の持ち味にスポットを当てたアミューズ。白石町産新玉ねぎの独特の甘さを最大限引き出すためによく火入れをして餡状にし、その中にブルーチーズを忍ばせるなど、食材を熟知しているからこそのアイデアがゲストたちを唸らせます。
    実はこの日、佐賀と縁が深い須賀氏ならではの嬉しい誤算が。1月に牡蠣の養殖現場を訪ねた太良の梅津聡氏に連絡を入れたところ、「佐賀でイベントするなら牡蠣を持っていくよ」という流れに。梅津氏の育てた牡蠣に惚れ込んでいたということもあり、急遽前菜の一つを入れ替えてゲストの元へと届けたのでした。

  • 有田の瑞峯窯のボンボニエールに盛られた「愛知 とり貝、佐賀 とり貝、北海道 つぶ貝、ホワイトアスパラガス 鳥取 関金わさび」。土佐酢のジュレをかけてさっぱりと。

  • かたときも食材の状態から目を離さない須賀氏が印象的だった。

  • 全国を飛び回る須賀氏が、この時期旬だと思う貝類を一皿に集めて。

  • 2皿目の器は本来菓子器として使われるボンボニエール。お菓子箱を開けるときのようなワクワクとした気持ちも演出。

自我を離れ、本質とは何かを探し求める。

全国津々浦々、良い食材があると聞けば足を運ぶことを惜しまない須賀氏ですが「取引をしてもらうまでに随分時間がかかった」と言うのが、岐阜の多田昌豊が作るペルシュウ(生ハム)。多田氏は日本唯一のパルマハム職人の称号を持つ達人で、トップシェフたちの間ではよく知られた存在です。ただ有名シェフであろうと店で提供するまでには関門が多く、料理に対する考え方を深く話し合い、そして高度なスライスの技術を身につけないと取引をしてもらえないのです。日本全国でもそのペルシュウを提供できているレストランは10軒ほど。まさに幻のような存在です。3皿目では、そのペルシュウを贅沢に使い、その下に雪下で6か月間寝かせて甘さを増した北海道のキタアカリを添えました。向こう側が透けて見えるほど極薄にカットされたペルシュウは、口の中でシュワシュワと溶けていくような極上の口当たり。ゲストの間で「こんな生ハム初めて食べた」という声が次々とあがるのも納得の、飛び抜けた美味しさでした。
また、今回のディナーで特徴的だったのは須賀氏の器のセレクト。この日に至る4回の「CUISINE SAGA」に登場したシェフたちが使ってきたのは、モダンな器たち。それに対し、須賀氏は明治期の柄や形状を復刻した器を多く選んできたのです。これらの器は呉須の替わりに赤絵を使い、その上に金彩を施した赤濃(あかだみ)金彩唐草紋と呼ばれるもので、「USEUM SAGA」のレギュラーメニューでも使われているもの。 「スペインのエルブジを契機として、料理だけでなく器も白磁でリムがあるという定形にはまらない、今風のものが台頭してきました。僕も普段はそういう器を使っているんですが、このさがレトロ館に来てそして明治期の器を見たときに素直に素敵だなと思ったんです。自分の料理で大切にしたいのはオリジナルなひと皿になるようにどう演出するかではなくて、素材を大切にしたシンプルな料理。その考え方と、明治期の洋食器の姿が重なったんでしょうかね」
今の時代にあえてクラシカルな器に料理を盛り付ける。それが新鮮だったようで、ほかの機会にもチャレンジしてみたいと語っていました。

3皿目の「北海道 函館 雪下ジャガイモ 岐阜 関“ペルシュウ”」。赤濃(あかだみ)金彩唐草紋は明治維新以降、西洋への憧れから流行した柄といわれる。

4皿目「山口 下関漁港 赤むつ 佐賀 さがひのひかり 蕗の薹」。甘い脂ののったのどぐろを軽く西京味噌に漬けて焼き上げ、蕗の薹のリゾットとともに。

5皿目「佐賀 黒毛和牛 京都 乙訓 小野農園 筍 花山椒」。旨味の濃い佐賀牛のハラミ肉をたっぷりの花山椒、高知県の地鶏・土佐ジローの目玉焼きにからめていただく。

クラシックな空間に明治期の柄を復刻した器が調和する。

良い食材の持ち味を生かしたシンプルな料理だけに、細心の注意を払いながら火入を行う。

旬の筍や名残の花山椒など、ひと皿で季節が伝わる。

アジアNo.1のパティシエとの夢の共演。

  • この日、気鋭のフレンチシェフ、須賀氏の料理を楽しみに訪れたゲストたち。そのゲストたちがさらに喜ぶサプライズが会場で待っていました。
    それは、ミシュラン2つ星に輝く銀座「ESqUISSE」のシェフパティシエ成田一世氏がデザートを担当するというアナウンスです。
    須賀氏と成田氏はロブション時代、パリや台湾、ニューヨークなど世界各国の厨房でともにクリエイティブなコースを作り上げた旧知の間柄。2017年には「アジアのベストレストラン50」でベストパティシエに選ばれるという栄に浴した、いま最も注目されるパティシエです。

  • 40人分のスフレを焼くという難題も、丁寧に淡々とこなしていく成田氏。

    スフレの生地が立ち上がり、周りは甘い香りに包まれる。

  • 3品で構成されたデセールのなかでも白眉はブラッドオレンジのスフレ。焼き立てでどこまでも軽い食感のスフレに中に、オレンジのソルベと果肉、ソースを流し込み、その温度差も含めて楽しむ一皿。「オーセンティックなコースのデザートとしてふさわしいと思った」と須賀氏が言うように、高い技術で作られたデゼールならではの気品すら感じました。

  • 6皿目「佐賀 いちご“咲姫”」。ルバーブといちごを使いガスパッチョ風に。器は明治〜大正にかけて作られていた、鍋島家の家紋“杏葉紋(ぎょうようもん)”を図案化した絵柄を復刻。

    7皿目「佐賀 ブラッド 佐賀 いちご“咲姫”」。ビールを蒸留し熟成させた「フルール・ド・ピエール」を隠し味に。フルーツを入れた器は李荘窯の鎬シリーズ。

    コースの最後を飾るのは香り豊かな焼き立てのマドレーヌ。

食材、そしてゲストへの真摯な眼差しが料理を特別なものにする。

  • ディナーの幕開けからフィナーレまで、厨房とゲストのテーブルを幾度となく行き来し、料理の説明やゲストへの目配りを絶やさなかった須賀氏。温かい料理は温かい状態で、冷たい料理は冷たいままで、そんな料理の基本となる部分にも常に心を砕く姿に、巨匠の信頼を得た理由の一端を見た気がしました。
    日本にはまだまだ素晴らしい食材がたくさんある。須賀氏の匠の技とこだわりによって、その幸せを再確認できた一夜でした。

  • 各卓をまわり、食材や生産者のことを熱く語る須賀氏。

「厨房の環境に影響されがちな焼き菓子もチャレンジできた」と笑顔を見せる成田氏。

PROFILE

ガガン・アナンド

須賀 洋介

Yosuke Suga

1976年愛知県名古屋市生まれ。料理人になることを見据えてフランス・リヨン留学後、フランスと日本で経験を積み、21歳から16年間、世界一星を持つフレンチの巨匠ジョエル・ロブションに師事。2003年、ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション 六本木ヒルズ店にて、26歳でエグゼクティブシェフに抜擢される。その後、ラスベガス、ニューヨーク、台湾、パリでの新店舗立ち上げの総料理長として陣頭指揮を振るい、巨匠の右腕として、レストランビジネスの研鑽を重ねた希有な経験を持つ料理人となる。2015年独立のため帰国し、自身のラボラトリー兼オフィス「SUGALABO Inc.」を東京・神谷町に設立。様々な地域・分野でのクリエーション活動を行う傍ら、限られた時間のみ会員制レストランとして世界の美食家に料理を提供している。