世界に誇る3つの才能が集結。会場もスタッフも“ホーム”に変え、一体感を創り出す。
[TOP CHEF DAY / CUISINE SAGA VOL.04]

Release on Jul 31, 2018

report 01.

フィールドを超えて尊敬しあえる間柄という、(左から)清水氏、川手氏、長谷川氏。

アジア2位&3位、そして日本唯一の肉のスペシャリストが共演。

美術館(MUSEUM)に飾るような器を使って(USE)、佐賀の食材をふんだんに使った料理を楽しむ維新(これあらた)なるレストラン「USEUMSAGA」。その象徴ともいえるのが、国内外から注目を集めるトップシェフを招聘し、一日限りで開催するクリエイティブなレストラン「CUISINE SAGA」です。VOL.04となる今回も錚々たるスターシェフたちが集結しました。
今回登場したのは東京・神宮前の「傳」の長谷川在佑シェフと、神宮前「フロリレージュ」の川手寛康シェフ、初台「アニス」の清水将シェフの3人。なかでも、2018年に発表された「アジアベストレストラン50」では、「傳」が2位、「フロリレージュ」が3位にランキングされたばかりというホットなタイミング。これで、VOL.02で話題をさらったガガン・アナンド氏(同1位)を含めて、アジアのトップ3のシェフたちがそろって佐賀の地を踏んだことになります。また、長谷川氏と川手氏は、日本各地の土地の恵みや文化を料理に落とし込むプレミアムな野外レストラン「DINING OUT」の経験者。佐賀の恵みをどのような皿に仕立てるのかに注目が集まります。
今回の3人のシェフたちは2016年に佐賀で行われた「世界料理学会 in ARITA」にも参加し、佐賀の料理人との交流も継続的に行ってきた経験があります。そうした経緯から今宵のレストランでも、佐賀の気鋭の料理人たちが厨房やフロアはもとより、地元のすぐれた食材の調達の面でも活躍。新たなクリエーションの一翼を担ったのでした。そのような身近でサポートしたシェフたちの視点も含めて、3人のシェフたちの凄みや魅力をお届けしたいと思います。

  • 遊び心ともてなしの精神に溢れた日本料理が世界から評価されている長谷川氏。

  • 稀代のシェフたちのコラボの噂を聞きつけ、香港から駆けつけたゲストも。

  • 今回も有田焼のモダン&クラシックな器が饗宴を引き立てた。

認め合った仲だからこそ、唯一無二の空気感が生まれる。

"仲良しシェフトリオ"と称されることも多い、長谷川氏、川手氏、清水氏の3人。シェフ同士のコラボが今ほど脚光を浴びていなかった時代から一緒に料理を作り上げることに取り組んできただけに、息もぴったり。互いの得意料理や考え方を知り尽くしているため、今回のメニュー構成や役割も、話し合いをするまでもなくスムーズに決定したといいます。その勝手知ったる仲間との1年半ぶりとなるコラボイベントというだけに、3人からは楽しくて仕方がないというオーラが満ち溢れていました。
今回のイベントを開くにあたり、佐賀の旧知のシェフたちに声をかけ、おすすめの食材を幅広く集めたといいます。地元のサポートスタッフもさらに料理仲間や生産者仲間に声をかけ、結局サポートに携わった人数はゲストの数を上回るほど。オール佐賀の料理人が結集し、この地の魅力を届けたい一心で会を盛り立てたのでした。

  • 得意とするフィールドが違うため、お互いの仕込みの作業にも興味津々。

  • 3人の店名が刺繍されたコックコートが、コラボの際のお決まりのユニフォーム。ここにも3人の仲の良さが垣間見える。

  • その甲斐もあって、この日のメニューはほとんど全てが地元・佐賀のもの。長谷川氏は「有明海、玄界灘と個性の異なる海で獲れる魚介類も面白いし、野菜もうまい。佐賀の食材のポテンシャルは相当高いと思います」と断言。
    1皿目のアミューズとして出された、「傳」名物の傳最中には、佐賀・白石町の日本料理店のお母さんが漬けた奈良漬と佐賀・大和町の干し柿を忍ばせ、アクセントとしていました。また、傳のシグニチャーディッシュとしても知られる傳サラダは、すべて佐賀の野菜だけで構成。カツオ節で和えたり、トマトの旨みを含ませたりと1つ1つの野菜に合わせた味付けを施し、“サガダ”と命名されて供されました。

  • 普段、店では寡黙に肉に向き合う清水氏だが、この日は楽しげに肉のレクチャーを行った。

  • 「有田焼はずっと使い続けている器で、実家の器を使っているようなもの」と話す川手氏。

  • 焼きあがったばかりの塊肉を持ってテーブルを周るプレゼンテーションにゲストも驚きの笑顔。

  • アミューズの「傳最中」。14代今泉今右衛門などの人間国宝や、三右衛門の器にのせ提供された。

  • 清水氏と川手氏による「鶏の燻製とナスのタルト」。スモーキーな燻香をまとったありた鶏とハーブがマッチ。

  • 地元の農家レストランとして野菜や米などを食材として提供し、さらにカリスマシェフたちの料理風景を間近で見ながら調理サポートした「農家の厨 野々香」の小野智史氏は、 3人の皿に秘められた緻密で膨大な仕事量に圧倒されたと語ります。「ゲストを喜ばせるため、目に見えない部分にかける労力がすごいなと。例えば、長谷川シェフの海老の真薯はつなぎを一切使わず、包丁の腹で丹念に叩くことで海老ならではの食感を引き出すなど、素材の味の引き出し方が本当に上手い。知らずに食べると気付くか気づかないかのレベルなんですが、そのひと手間が料理の完成度を左右するということを改めて教えてもらいました」(小野氏)。
    その言葉を象徴する一皿が、3品目に供された川手氏による「岩ガキのサラダ仕立て フロマージュブラン」。佐賀県太良町のカキ生産者「海男」の梅津氏が育てた濃厚な旨みの岩ガキと一緒に包まれているのが、玄界灘産のウニ。そのウニは醤油とみりん、酒を煮切った“煮切り”で洗い、軽く“ヅケ”にすることで、ウニが本来持つ甘味や旨みをいっそう凝縮させ、さまざまな味が入り混じる料理のなかでも、ひときわ印象的を残す食材へと昇華させているのです。まさに“神は細部に宿る”という川手氏の料理におけるフィロソフィーを体現したクリエーションとなりました。

  • 川手氏の「岩ガキのサラダ仕立て フロマージュブラン」。地元の道の駅で見つけたナスを傳の出汁を使って三倍酢仕立てに。

    長谷川氏の「海老真薯」。海老を丹念に叩くことで粘りが出て、甘味や香りも増す。

世界的シェフたちも舌を巻く、“究極の肉”が登場。

今回、アジア2位と3位にランキングされた長谷川氏と川手氏の揃い踏みに注目が集まりがちなのですが、その2人をして「料理観、技術ともにリスペクトできる」と一目置かれているのが、肉料理のスペシャリスト・清水将氏です。
実際、ゲストの目の色が一番輝いたのも、清水氏がローストした豚や牛肉を使ったコラボ料理でした。
パリの3つ星「アルページュ」のシェフで、肉料理のレジェンドとも称されるアラン・パッサールシェフから肉焼きの極意を学んだ清水氏。その調理法は極めて独特。肉を火傷させない(ジュッといわせない)ために、炭火の上にプレートをのせ、さらに肉の下にトウモロコシの芯や藁、柑橘類、ハーブなどを敷いて焼くというもの。この日も朝7時から焼き場に立ち、ときどき肉に触れては状態を確かめながら、数時間をかけて肉を仕上げていました。
「料理界というのは誰でもできるように簡略化していくことがいまの潮流です。でも僕の場合は逆に、自分にしかできない方法を突き詰めたいんです。それがアラン・パッサールの弟子としての使命だと考えています」(清水氏)。
そうした手間と時間をかけて焼いた豚肉に包丁を入れた瞬間、うっすらピンクがかった断面が現れます。いかにも柔らかくしっとりとした質感なのに、肉汁が全くこぼれ落ちないのが驚きです。今か今かと待ちわびたゲストたちからも「今まで食べてきた肉料理とはまったく別物」「アメージング」と、次々と感嘆の声が漏れました。
清水氏が手がけた肉は、ありた鶏、武雄の若楠ポーク、佐賀牛という佐賀のブランド肉。ありた鶏では川手氏のなすのタルトとともに、また、若楠ポークは川手氏のカブとビーツの美しいスープとともに提供。そしてメインは、佐賀牛サーロイン(清水氏)、佐賀牛タルタル(川手氏)、もろこし雑炊(長谷川氏)と3人がコラボした一皿を完成させました。

「豚肉 カブとビーツのスープ仕立て」。清水氏が焼いた若楠ポークに、川手氏による野菜本来の甘味を生かしたスープを添えて。

長谷川氏の「サガダ」。塩昆布を纏わせたリーフの中にはスライスしたきゅうりやごぼうの薄揚げなどの野菜のほか、マンゴーやブルーベリーも。ひと口ごとに違った印象が楽しめる。顔型にくり抜いた人参を潜ませる遊び心も。

「佐賀牛サーロイン 佐賀牛 赤身のタルタル モロコシ雑穀」は3人によるコラボメニュー。玉ねぎと水だけを4時間煮詰めたというソースは蜂蜜のような濃密な甘さ。

川手氏がミルン牧場の牛乳に水飴を加えて作った「牛乳アイス」。砂糖漬けにした実山椒がアクセント。

川手氏による「しそ&チョコ」。シソの爽やかな香りと、カカオやバター、黒砂糖などでビターに仕上げたチョコが調和。

清水氏の「マドレーヌ」と川手氏の「サクランボ」。果実を濃縮させたパートドフリュイで、フレッシュなサクランボをコーティング。

時間をかけて優しく火を通すことで佐賀牛の旨みを1滴も逃さず、肉の中に閉じ込めている。

メインディッシュには「野々香」でとれた米やスイートコーンなどを混ぜた十三穀米を土鍋で炊き上げた“米のソース”を添えて。

フードエッセイストとして人気の平野紗季子氏も、旧知の川手氏たちの夢の競演に終始笑顔。

3人のスターシェフとオール佐賀でつくりあげた晩餐に、ゲストからも惜しみない拍手が。

高い目標を共有することで、佐賀の地に新たな種を撒く。

  • 3人のシェフが醸し出す和気あいあいとした雰囲気。それがゲストにも伝わって、あたかも会場全体がホームパーティーのような温かな空気感で満たされたひととき。そうした光景を裏舞台で支えた地元のシェフたちはどのような思いを抱いたのでしょうか。
    「世界料理学会in ARITA」に登壇した経験もある佐賀県武雄市のイタリアンシェフ梶原大輔氏もその一人。梶原氏は今回の長谷川氏たちがチームのために掲げたテーマは「ゲストも、働く人も楽しく」だったと打ち明けます。「招聘されたシェフたちの姿で一番刺激を受けたのは、その人間性。3人とも自分が前に出るわけではなく、周りの人が活躍するのを楽しみにしているような感じなんです。レシピも全て包み隠さず教えてくれて、さらにこういう場合はこうした方がいいよ、とプラスアルファの情報まで。僕たちはサポートする立場でしたが壁が何もなくて、チームとしての一体感を感じました」。

  • 佐賀・白石の「農家の厨 野々香」の小野智史氏。USEUM SAGAのデイリーメニューも監修する。

  • 小野氏が教鞭をとっていた調理専門学校の生徒たちも見学に訪れ、世界的なシェフたちの技に見入っていた。

  • 一方、長谷川氏の「傳」で研修した経験もある小野氏は「普段、佐賀の食材に触れているはずなのに、まだまだ地元の食材のことを知らないな、と気づかされました。佐賀にはすごくいい食材がある。いい器もある。それを再認識できたので、今度は料理人もレベルアップしていかないと。せっかくの明治維新を記念したイベントに報いるためにも、料理に真摯に向き合っていこうと思います」。

「凝縮された2日間を過ごしたことで、チームとしての絆を感じた」と話す清水氏ら3人と、佐賀のサポートシェフたち。「USEUM ARITA」や「世界料理学会in ARITA」に携わった山田氏(前列左) や西山氏(前列右)の姿も。

PROFILE

長谷川 在佑

長谷川 在佑

Zaiyu Hasegawa

1978年東京生まれ。幼い頃、芸者をしていた母親が仕事先の料亭から持って帰くる弁当を食べ料理に興味を持つ。高校卒業後、「神楽坂 うを徳」に住み込、18歳より老舗割烹「うを徳」にて修行。その後、多数の料理店にて経験を積み、2007年29歳で独立。東京・神保町に『傳』を開店する。開店からわずか3年目で『ミシュランガイド東京2011』にて二つ星を獲得。2016年12月、店舗を神宮前に移転。2016年「アジアベストレストラン50」に初登場で37位を獲得し、2017年には11位と「アート オブ ホスピタリティ賞」を受賞、さらに2018年には2位と大躍進。豊富な食材、四季、日本独特の文化といった良さを大切にしつ、遊び心ともてなしの精神に溢れた「新しい形の日本料理」を創作し、世界中から高い評価を受けている。

川手 寛康

川手 寛康

Hiroyasu Kawata

1978年生まれ、東京都出身。両親は洋食店を経営、親戚も料理人という家庭に生まれ、幼い頃からシェフになること以外は考えられなかったというほど料理が身近な環境で育つ。高校を卒業後、2000年『恵比寿Q.E.D. CLUB』『オオハラ エ シイアイイー』にて修行を積む。2002年より西麻布『ル ブルギニオン』でスーシェフまで務める。20代で自分の店を開くことを決意し2006年渡仏。モンペリエの『ジャルダン・デ・サンス』にてフランス修行を積んだ後、2007年に帰国。白金台『カンテサンス』のスーシェフを経て2009年に独立。東京・南青山に『フロリレージュ』を開店し、2015年には神宮前に移転。国産の食材にこだわった「日本・東京でしか出来ない、フロリレージュでしか出来ない日本人に合う創作フランス料理」を作り、固定概念にとらわれないフレンチの新しいかたちを生み出し続けている。2015年12月『ミシュランガイド東京2016』の一つ星、同ガイド2018では二つ星を獲得。2016年「アジアベストレストラン50」の中で、近い将来トップ50に入る可能性が最も高いレストランに贈られる「注目のレストラン賞」を受賞、2017年に14位、そして2018年には3位に輝いた。

清水 将

清水 将

Susumu Shimizu

1975年生まれ、大分県出身。工科短大卒、半導体メーカーに1年勤務後、料理界へ。和食を3年間修業した後に「ジャルダン・デ・サヴール」に入る。2002年渡仏。リヨンのビストロを経て、三ツ星「マルク・ヴェラ」で2年。パリの「ボナクイユ」「シャマレ」で経験を積み、「アルページュ」で2年弱、後半は肉部門シェフを務める。さらに、パリ随一の精肉店「ユーゴ・デノワイエ」に半年間勤務。2009年帰国、銀座「ラール・エ・ラ・マニエール」の初代エグゼクティブシェフに就任。2013年8月カジュアルフレンチレストラン「anis」をオープン。