佐賀の大地と海と対話する奥田シェフが見せた「これからの料理」。
[TOP CHEF DAY / CUISINE SAGA VOL.05]

Release on Oct 25, 2018

report 01.

イタリアのスローフード協会国際本部が主催する「テッラ・マードレ2006」で、世界の料理人1000人に選出された奥田氏。

ローカルの食材に光を当てる、「アル・ケッチャーノ」のシェフが登場。

  • 明治維新150周年を記念して、2018年3月に開幕となった「肥前さが幕末維新博覧会」も折り返し地点。「美術館(MUSEUM)に飾るような器を使って(USE)、佐賀の食材をふんだんに使った料理を楽しむ維新(これあらた)なるレストラン」として期間限定でオープンする「USEUM SAGA」も、日を追うごとに注目を集めています。
    その「USEUM SAGA」の象徴ともいえる、国内外のトップシェフを招いて開催する一夜限りのプレミアムディナー『CUISINE SAGA』も今回で6回目。今回もまた、食通のみならず日本、そして世界中のシェフに影響を与えるシェフ、山形「アル・ケッチャーノ」の奥田政行氏が招聘(しょうへい)されました。

  • 今回の夢の舞台も「さがレトロ館」で。

飄々(ひょうひょう)とした佇まいながらも、常に食材の状態に気を配る奥田氏。

「奥田メソッド」で佐賀の旬をひとつのコースに。

山形県庄内地方で採れた伝統野菜の個性を掘り起こし、田舎のイタリアンだった「アル・ケッチャーノ」を、世界中の食通が憧れる名店に育て上げた奥田氏。近年は著書『食べもの時鑑』が「グルマン世界料理本大賞2017」において、食の遺産部門グランプリを受賞するなど、厨房を離れたところでも、多くのシェフたちに多大な影響を与え続ける、「料理界のインフルエンサー」ともいえます。

  • 特徴的なレリーフが入ったショープレートは、シェフの故郷・山形の庄内平野をかたどったもの。

  • 直営店、そして日本各地に散らばるプロデュース店を含めるとその数10店舗。自身の思いを伝える店を統括する、その核となっているのが「奥田メソッド」とも称される独自の料理理論です。例えば、海外で醤油が欲しいけれど手に入らない時、奥田氏はそれ以外の食材や調味料を組み合わせて、醤油の味わいを再現するといいます。それは、それぞれの食材の酸味や苦味、えん味などが頭の中にあり、どの味を足せば求める味わいになるのか、経験値から導き出しているのです。

  • 今回のコースでも、秋口の佐賀で旬を迎える食材、特徴的な個性の調味料などのリストを見ただけで、ものの20分ほどで全ての料理の内容と皿も含めた盛り付けのビジョンを描いたといいます。 更に当日、有明海で牡蠣の養殖を行う生産者が、「奥田シェフに味見をして欲しい」と急遽、塩クラゲを持参したのですが、それを手にした瞬間、3皿目のアボカドの付け合わせの中に混ぜ込むことを決めたのでした。
    「僕はクラゲが『アボカドの中に入れて』と言ったのが聞こえたんだよね」と奥田氏は冗談めかして話しますが、皮膚感覚とレシピが直結するほどに、膨大な食材と対話を繰り返してきたのかが伺いしれます。

  • 2018年、佐賀県有田町に「タイマーの宿」を開業した高岡氏。かつて奥田氏のもとで働いた経験もあり、応援に駆けつけた。

そんな奥田氏が今回の佐賀の饗宴で楽しみにしていたというのが、有田焼を使った盛り付けです。「日本各地を訪ねたけど、有田焼の華は別格だと思います。言い方を変えれば世界基準。そんな器に負けないように、僕も普段は使わない「必殺の禁じ手」も交えて構成しようと思います」。
1皿目やデザートのフォレノアールに用いたショープレートは、奥田氏が長い間実現を夢見ていたという、山形・庄内平野をモチーフに有田焼で表現したもの。山形の大地で育まれた食材を生かす技と、佐賀の豊かな恵みを繋げる役割を果たしたのでした。

  • サガ・ビネガーなど、地元の個性的な調味料もエッセンスとして取り入れた。

  • ゲストのテーブルを回るごとに、即興の「講義」が繰り広げられた。

食べることへの興味を掘り起こす。

この日のメインとなった食材は、奥田氏が以前から惚れ込み、銀座の店や東京のイベントでも提供している、基山町産のエミュー。エミューとはダチョウのような見た目の「飛べない鳥」で、日本で飼育されている地域はごく少数。基山町では4年前に牧場での飼育が4羽から始まり、その数は今や400羽まで増えています。高タンパクで低カロリーという栄養面での利点もさることながら、奥田氏は噛むほどににじみ出る肉汁や、濃厚なソースにも負けない旨味を生かして、相性のいいブルーベリー、そしてシナモンとともに供しました。
コースでは皿が運ばれるたびに、その料理の説明を丁寧に行うのが奥田流。そのどれもが単なる食材の説明、こだわりの解説に留まらず、食材が生まれ育った背景や、噛む回数と味わいの関係性、山や浜の成り立ちからみる海の幸の美味しさなど、今まで考えもしなかった理論ばかりです。
例えば、8皿目にネギを焦がした衣を纏わせた佐賀牛が登場した際は、焦げ目に惹かれる人間の心理について、保存技術がなかった時代、人は焦げているもの(しっかり火が通っているもの)は安心して食べることができたので、その名残だと説明したり、佐賀牛に添えた人参のピューレの甘さの秘密を、70℃で50分茹でることで人参のデンプンが麦芽糖に変わると解説したりと本当に多彩です。
いつの間にかゲストは、プロフェッショナルの料理を楽しむと同時に、「プロフェッサー=教授」の講義を楽しんで聞く学生のように、料理や食材について深く知る喜びを感じていました。

1皿目「鯛とキャビアの冷たいカッペリーニ」。

2皿目「この有田焼の器でミラノベジタリアンチャンス(野菜料理国際大会)3位 生のラタティーユ」。

3皿目「不知火とアボカドときゅうりとサーモン」。

4皿目「佐賀の魚介をたっぷり使った手打ちパスタフレーグラ 」。

5皿目「塩麹の香りをつけた有田鶏とサガ・ビネガーのザバイオーネにフォアグラムースと板麩」。

「タイマーの宿」高岡シェフが朝摘んできた、鮮烈な香りのバジルを添えて。

今回のディナーの主役素材といえるのが、佐賀県基山町で育ったエミュー。

奥田氏の説明を聞き、頭でも咀嚼しながらじっくり料理を味わうゲストたち。

フォレノワールは、今回の佐賀巡りで訪れた伊万里市の秘窯の里 大川内山の窯元通りをイメージし、ブドウをステンドグラス調に。

6皿目「モッツァレラチーズと光樹トマトのかまないマルゲリータ」。

7皿目「エミューのタルタータとシナモンをまとったブルーベリー」。

8皿目「佐賀牛イチボのローストと嬉野紅茶のタンニンを入れた人参のピューレ」。

9皿目「ムツゴロウのコンソメとレンズ豆のリゾット」。

庄内プレートに盛り付けられた、10品目の「基山町産ぶどうを使ったフォレノアール」。

  • 一人で味わうだけでなく、シェフが生み出す未知なる味を通して自然と交流の輪が生まれていた。

  • 東京スカイツリーの「ラ・ソラシド・フードリレーションレストラン」のシェフなど奥田氏の右腕たちに加え、佐賀の高岡氏や「Kaji」の梶原氏も調理、サービスの両面でサポートした。

巨匠でありながらも、親しみを感じさせる素朴な人柄にもファンは多い。

PROFILE

奥田 政行

奥田 政行

Masayuki Okuda

1969年、山形県鶴岡市生まれ。高校卒業後に上京し、イタリア料理、フランス料理、純フランス菓子、イタリアンジェラートを修行。帰郷後に2つの店で料理長を歴任。2000年に独立し「アル・ケッチァーノ」を開業。2004年、庄内の食材を全国に広める「食の都庄内」親善大使に任命される。2006年イタリアのスローフード協会国際本部主催「テッラ・マードレ2006」で、世界の料理人1000人に選出される。2009年、東京・銀座に「YAMAGATA San-Dan-Delo」をオープン。2010年、第1回「辻静雄食文化賞」を受賞。2012年、スイスで開催されたダボス会議において「Japan Night 2012」料理責任監を務める。2016年には、イタリア・ミラノで開催された野菜料理の国際大会「THE VEGETARIAN CHANCE」で世界3位に輝いた。2017年著作「食べもの時鑑」が「グルマン世界料理本大賞2017」において食の遺産部門グランプリを受賞。独創性に富んだ料理は、国内のみならず海外でも高い評価を得ている。